
朝ドラあんぱん第22話では、嵩が自らの夢を「絵を描いて生きる」と定め、寛が示した現実と夢の間の道を進もうと決意する重要な回となりました。嵩が挑む美術学校受験では、数学という大きな壁が立ちはだかり、彼の成長が静かに描かれます。一方、のぶは女子師範学校で直面した試練に向き合いながら、家族に支えられるのぶの帰省シーンで心の温もりを再確認します。勇気100倍!嵩の決意が生んだ感動は、家族全体にも大きな力となりました。また、蘭子が見せた家族愛と成長の一コマ、黒井先生の厳しさと時代背景のリアル、のぶとうさ子の友情と支え合いの絆など、多面的なテーマが繊細に描かれています。さらに、草吉の皮肉に込めた深いエールも嵩の挑戦を後押しし、物語に厚みを加えました。本記事では、朝ドラあんぱん第22話の見どころを丁寧に振り返ります。
- 嵩が夢と現実の狭間で進路を決意する過程
- のぶが女子師範学校で直面した試練と成長
- 朝田家と地域の温もりに支えられる家族の絆
- 草吉や蘭子を通して描かれる家族愛と応援のかたち
朝ドラあんぱん第22話|絵と夢を追う若者たち

寛が示した現実と夢の間の道
第22話の冒頭、柳井家で交わされた嵩と伯父・寛の対話は、物語の中でも屈指の重みを持つ場面となりました。嵩が「絵を描いて生きていきたい」と決意を語ると、寛は土佐弁で「現実的やないねや。絵では食っていけん」と厳しい言葉を投げかけます。ここで描かれるのは、夢を語る若者と、それを現実で支えようとする大人のせめぎ合いです。
寛は嵩に対し、図案や本の挿絵、広告の絵といった“食えるかもしれん”選択肢を挙げ、「かもしれんに人生をかける覚悟があるのか」と問います。この“かもしれん”という言葉は、夢と現実の間にある曖昧で不安定な領域を象徴しており、それでも一歩踏み出そうとする者にとって避けて通れない壁です。
最終的に寛は「美術系の学校へ進め。おまんが決めた道やき、おまんが責任を持て」と嵩の背中を押します。この言葉には、現実を知る者だからこそできる激励と、親代わりとしての寛の深い愛情が込められていました。現実を突きつけながらも、夢を諦めさせず、信じる覚悟を試す――この一連のやりとりは、視聴者の心にも強く残ったはずです。
嵩が挑む美術学校受験と数学の壁
進路を美術系に決めた嵩が、最初に直面した現実は意外なものでした。「美術の学校なのに数学の試験があるなんて…」と驚き、絶望する嵩。千尋が持ち帰った受験雑誌を見ながら、彼はその事実を知ります。これまで「絵が好き」だけで突き進んできた嵩にとって、苦手な科目との対峙は避けられない試練です。
千尋は「漫画も載っている」と柔らかく兄を励ましながら、漫画投稿ページをすすめます。しかし嵩は「今は漫画を描いてる場合じゃない」とピシャリ。彼はすぐに「何が何でも数学を克服する」と自らを奮い立たせました。
ここでは、嵩の“夢を語るだけの少年”から“現実に挑む受験生”への変化がしっかりと描かれています。夢を叶えるには好きなことだけでは足りないという壁。それに対し、真正面から向き合おうとする嵩の姿は、成長の兆しを感じさせる場面でした。
のぶが女子師範学校で直面した試練
のぶの女子師範学校での生活は、華やかさとは無縁の厳しいものでした。寮生活の中で、彼女が最も心を砕いたのは、同室のうさ子の涙でした。慣れない生活とホームシックに泣き出したうさ子を、のぶは優しく励まします。しかし、そこに現れた担任・黒井雪子の叱責は、想像をはるかに超える厳しさでした。
「あなたの価値は体操の点だけ」「鏡川のボウフラよりも弱い」。黒井先生の言葉は、うさ子だけでなく、のぶの心にも鋭く刺さるものでした。のぶが「家族のために努力する」と答えても、「そんな甘ったれた精神だからホームシックにかかるんです」と一蹴される始末。
このシーンは、時代背景の厳しさと、女子教育に求められる“強さ”を端的に表しています。そしてのぶは、その中でも自分なりの戦い方を模索し始めます。次の土曜に実家へ帰る許可をもらうことに成功したのぶ。彼女は心の拠り所である家族のもとに戻り、再び戦う気力を取り戻すのでした。
のぶが見せた他者への思いやり、黒井先生の厳しさを受け止めながらも決して折れない芯の強さは、今後の成長を予感させる重要な一歩となっています。
家族に支えられるのぶの帰省シーン
女子師範学校での厳しい生活の中、のぶがつかの間の帰省を果たした朝田家の風景は、第22話のなかで最も心が和むシーンのひとつでした。ようやく戻ってきた実家。のぶを迎えたのは、石を削る音、ふいごの響き、そして焼きたてのパンの香り――五感に訴える温かな日常の光景です。
「ただいま」と玄関をくぐるのぶに、祖父・釜次が声をかけ、家族みんなが次々と顔を見せます。母・羽多子や祖母・くらの穏やかな笑顔、妹・蘭子の冗談交じりの言葉が、のぶにとって何よりの癒しとなっていたのは言うまでもありません。
このシーンでは、のぶが初めて寮生活の本音を家族にこぼしますが、誰も否定することなく、むしろ当たり前のように包み込む姿勢が印象的です。特にくらの存在がのぶにとって心の支えになっている様子は、家庭が彼女にとってどれほど大切かを改めて感じさせます。
のぶの「この家に生まれてよかった、この家族でよかった」という想いが、言葉にせずとも伝わる描写は、家族の存在がのぶの原点であり、戦う力の源であることを静かに物語っていました。
勇気100倍!嵩の決意が生んだ感動
帰省中ののぶに対して、嵩が「僕は絵を描いて生きていく」と堂々と宣言する場面は、物語のクライマックスのひとつです。この一言に至るまで、嵩は伯父・寛との会話で現実と向き合い、弟・千尋との勉強会で課題を認識しながらも、夢に向かう決意を強めてきました。
のぶは、その告白を聞いても驚くことなく、「たかしは絵を描くために生まれてきた人やき」と即座に受け入れます。この反応には、のぶ自身が他人の本質を見抜く目を持っていること、そして嵩の変化を静かに見守ってきた時間の積み重ねが反映されています。
嵩の「勇気100倍!」という言葉は、ここでのぶの存在が彼にとってどれだけ大きな支えになったかを象徴しています。また、このフレーズはやなせたかしの代表作『アンパンマン』を想起させるものであり、物語全体の根幹に流れる“誰かを喜ばせたい”というテーマとも重なります。
この瞬間、嵩はただ夢を語る少年ではなく、それを実現する覚悟を持った若者として視聴者に印象づけられました。そして、草吉の「絵に描いたようなバカだな」という一言が、それを茶化しながらも心からの賛辞であることが伝わるように、家族の中で嵩の決意が静かに、しかし確かに受け入れられていく様子が描かれていました。
朝ドラあんぱん第22話|家族と友情が紡ぐ物語

蘭子が見せた家族愛と成長の一コマ
第22話では、のぶの妹・蘭子がパン屋を手伝う日常の一場面から、彼女の内面の成長と家族への思いが丁寧に描かれました。郵便局が休みの日、蘭子は店先に立ち、常連客である山さんとやりとりを交わします。アンパンを6個買いに来た山さんは、のぶの同級生で、かつてのガキ大将。どうやら蘭子に気がある様子ですが、蘭子はそれを受け流しつつも堂々と対応します。
この軽妙なやりとりの中で、蘭子の芯の強さと、家族の一員として自分の役割をしっかり果たそうとする姿勢が際立っています。山さんとの会話の流れから、蘭子が「どこにも行きとうない」「この家が好き」と語る場面は、彼女の家族への愛情の深さを示す印象的な一言です。
日々の喧騒、石を削る音や焼きたてのパンの匂いすらも“この家がええが”と感じる蘭子にとって、家は単なる生活の場ではなく、心の拠り所でもあります。この何気ないやりとりから見えてくるのは、蘭子が少女から家を支える一人の成員へと変わっていく過程であり、姉・のぶの不在を補おうとする自覚でもありました。
黒井先生の厳しさと時代背景のリアル
のぶが女子師範学校で直面した現実の象徴として、担任・黒井雪子の存在は圧倒的でした。第22話では、泣き出したうさ子を慰めるのぶに対し、黒井先生が容赦のない叱責を浴びせる場面が描かれます。「あなたの価値は体操の点だけ」「鏡川のボウフラよりも弱い」など、強烈な表現が飛び出し、視聴者にも強い衝撃を与えました。
このやりとりは、昭和初期という厳しい時代背景を色濃く映しています。女性にも「御国のために強くなれ」と求められる価値観の中で、精神的な甘さは徹底的に否定される風土。その中でも「家族のために努力する」と答えるのぶに対し、「甘ったれた精神だからホームシックにかかる」と返す黒井先生の言葉は、のぶの純粋な志までも否定するものに聞こえます。
しかしこの場面は、ただのスパルタ教育描写にとどまらず、戦前の教育観、そして女性が「役に立つ人材」として育成される重圧を如実に示しており、視聴者に当時の社会構造の厳しさを強く印象づけました。
のぶとうさ子、友情と支え合いの絆
過酷な寮生活の中で育まれる絆もまた、このエピソードの大切な一面でした。のぶが帰省する前、ホームシックに泣き出したうさ子を抱きしめて励ます場面では、のぶの優しさと芯の強さが際立ちます。「もう嫌、家に帰りたい」とこぼすうさ子に対し、のぶは「今度の休みには家に帰ってみんなに会えるき」と語りかけ、励まします。
のぶ自身もまた寮生活に慣れず、不安や孤独を抱えている立場でありながら、仲間の涙を見過ごすことなく寄り添う姿は、彼女の“教師になる”という夢への素養がすでに芽生えていることを感じさせる場面です。
この関係は、一方的な励ましではなく、二人が同じ環境で不安を共有する“対等な立場”での支え合いであることも重要です。のぶが得た外泊許可で家に帰る決断をする背景にも、うさ子とのやりとりが深く影響しているように感じられます。
この小さな絆が、のぶの心を支える力になっていく過程は、今後の展開でも重要な意味を持つことでしょう。ここで描かれた友情の姿は、厳しい環境の中で育つ“人とのつながり”の価値を静かに伝えていました。
草吉の皮肉に込めた深いエール
家族が集まる中、嵩が「美術学校を受験して、絵を描いて生きていく」と堂々と宣言した場面では、草吉が発した「絵に描いたようなバカだな」という一言が場を和ませました。この皮肉めいたセリフには、単なる冷やかしではない、深いエールが込められていました。
草吉は、これまでも朝田家にとって支えとなってきた存在ですが、現実を知る大人として、夢だけでは食べていけないことも痛いほど理解しています。それでも、嵩の覚悟を笑い飛ばすことで「それでも行け」という無言の激励を送ったのです。
嵩自身も、草吉のこの言葉を真正面から受け止め、ふざけながらも誇らしげな笑顔を見せました。家族全体もこの瞬間、ただ黙ってではなく、笑いの中で嵩の挑戦を温かく見守るというスタンスをとることで、彼の背中を押していることが伝わってきます。
草吉のような“大人の皮肉”が、夢を語る若者たちに対してただ甘い言葉を投げかけるのではなく、覚悟を試し、なおかつ支える役割を果たしていることが、このシーンからは深く感じ取れました。嵩にとって、この一言は生涯忘れられないエールとなるでしょう。
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