
朝ドラあんぱん第28話では、戦時下という重たい時代背景の中に、家族の絆や恋心、そして過去の謎が丁寧に織り込まれていました。銀座のパン屋に現れた草吉の謎を皮切りに、豪の壮行会に込められた家族の想いや、三姉妹が語る両親のなれそめエピソードが描かれ、登場人物たちの心の動きが繊細に表現されます。草吉の助言に見る“逃げる勇気”の哲学や、母・羽多子のラブレターが示す夫婦の信頼も物語に深みを与える要素です。中でも、豪の「毎日会ってます」というひと言には視聴者がざわつき、蘭子の恋心が物語をどう動かすのかに大きな注目が集まりました。戦時下の青春と恋──視聴者が共感した理由がそこにはあり、写真の伏線が示す草吉の過去や、豪と草吉の釣り場トークに込められた願いも見逃せません。この記事では、そんな第28話の見どころを丁寧に振り返ります。
- 草吉の過去に関する伏線とその意味
- 豪と蘭子の恋の進展と家族の反応
- 戦時下における若者の心情と選択
- 羽多子と結太郎の夫婦愛と家族の絆
朝ドラあんぱん第28話で描かれた家族と愛のかたち

銀座のパン屋に現れた草吉の謎
第28話の冒頭では、嵩(北村匠海)が友人の健太郎(高橋文哉)と共に銀座を訪れ、「美村屋」というパン屋に立ち寄る場面が描かれた。入店した嵩は、店内に飾られた一枚の白黒写真に目を奪われる。そこに写っていたのは、彼がかつて高知で出会ったパン職人・屋村草吉(阿部サダヲ)に酷似した男性だった。
草吉の過去に関する新たな謎が浮上するかたちとなった。この場面は、草吉という人物の背景をより深く掘り下げる伏線となりそうだ。
「この人、草吉さんに似てるような…」という嵩のつぶやきが印象的であり、視聴者にとっても草吉の人生の謎に興味を持たせる導入となった。東京と高知という地理的な隔たりを越えて浮かび上がる“過去”の輪郭は、物語の新たな展開を予感させるものである。
豪の壮行会に込められた家族の想い
高知では、朝田家の人々が、軍に入隊する原豪(細田佳央太)のために壮行会を開こうと準備を進めていた。祖父・釜次(吉田鋼太郎)が中心となり、賑やかで明るい会にしようとする場面は、重苦しくなりがちな戦時下の物語に一瞬の温かさを添える。
その裏で、のぶ(今田美桜)は妹・蘭子(河合優実)の恋心に気づき、母・羽多子(江口のりこ)や祖母・くら(浅田美代子)に相談する。「蘭子に後悔してほしくないがよ」というのぶの一言には、家族だからこそ見守りたいという切なる想いが込められている。
戦争という避けがたい現実の前で、家族はそれぞれに不安と愛情を抱えながら、送り出す側としての覚悟を固めていく。この壮行会は、家族が“笑顔”という形で悲しみを飲み込もうとする、そんな複雑な感情が交差する時間だった。
三姉妹が語る両親のなれそめエピソード
エピソード後半では、蘭子が母・羽多子に対して、父・結太郎(加瀬亮)とのなれそめを尋ねる印象的な場面が描かれた。羽多子は、お見合いで結ばれたというエピソードを語りながら、結婚してから夫が送ってくれた束のラブレターを娘たちに披露する。
結婚式の日に初めて顔を合わせたという、今では想像しがたい形の夫婦関係が明かされるが、その後、少しずつ愛を育んでいったという事実に三姉妹は驚きつつも、心を打たれる。メイコ(原菜乃華)が手紙を読み上げ、3人が照れくさそうに叩き合う微笑ましい場面は、戦時下の不安を忘れさせるほど温かなひとときであった。
「どんなに離れてもあなたはわしの心におります」という結太郎の言葉は、距離を超えて続く夫婦の絆を象徴しており、若い世代である蘭子にも恋愛や結婚への思いを深めさせるきっかけとなった。このなれそめ話は、ただの過去語りにとどまらず、今の世代が何を大切にすべきかを静かに問いかける重要なシーンとなっている。
草吉の助言に見る“逃げる勇気”の哲学
屋村草吉(阿部サダヲ)は、軍隊への入隊が目前に迫った原豪(細田佳央太)を釣りに誘う。この一見のんびりとした時間の中で、草吉は豪に向けて重要な人生観を語る。
「戦争なんていい奴から死んでくんだからな」「逃げて逃げて、逃げ回るんだ」と、草吉は冗談のように語るが、その言葉の裏には深い経験と覚悟がにじんでいる。草吉自身が戦争経験者であることを示唆しつつも、詳細は語らない。しかしその“語らなさ”こそが、豪に伝えたいメッセージの重みを感じさせる。
一方の豪は、「わし、もう覚悟はできております」と、まだ若いながらも芯のある姿勢を見せる。それでも、草吉はなおも豪をからかいながら「食っときたいもんとか、会っときたい女とかいないのか?」と問いかけ、人生をしっかり味わってから行けと諭す。
このやり取りは、若者に「勇気ある撤退」を肯定する稀有なシーンであり、戦争という状況の中で“生き残ること”を肯定的に描いた点で、非常に重要な意味を持つ。草吉の助言は、ただの戯言ではなく、生きるための哲学として若者に託されたものであった。
母・羽多子のラブレターが示す夫婦の信頼
蘭子(河合優実)は、家族団らんの中でふと母・羽多子(江口のりこ)に父とのなれそめを尋ねる。羽多子は、結太郎(加瀬亮)とお見合いで出会い、結婚式の日に初めて顔を合わせたという驚きの事実を明かす。これには、娘たち三姉妹も驚きを隠せない。
しかし、羽多子の語る夫婦の歴史は、それだけでは終わらない。彼女は結婚後、夫から届いた束の手紙を見せる。それは、離れた地から何度も送られてきた愛情あふれるラブレターだった。メイコ(原菜乃華)が一通を朗読し始めると、思わず三姉妹は照れて叩き合い、笑顔が広がる。そんなやり取りの中に、家族の温かさと信頼があふれていた。
「あなたはわしのここにおります」という手紙の一節は、どんなに離れても相手を思う気持ちを象徴している。戦争で家族が引き裂かれる状況にあっても、心が通じ合う夫婦の絆は、家族の土台として子どもたちに伝わっていく。
この場面は、過去の“なれそめ”という個人の物語が、今を生きる娘たちにも影響を与える重要な要素として描かれた。愛が育つ過程は一様ではないが、時間と想いを重ねることで深い信頼に変わる——それが羽多子と結太郎の関係に凝縮されていた。
朝ドラあんぱん第28話の感想と注目ポイント

豪の「毎日会ってます」に視聴者ざわつく
草吉(阿部サダヲ)に釣りに連れ出された豪(細田佳央太)は、戦地に向かう前のひとときを過ごしながら、「やりたいこと全部やってから行け」と言われる。草吉は豪の心にある“誰か”の存在を探ろうと、「食っときたいもんとか、会っときたい女とかいないのか?」と軽く問いかける。
これに対して豪は、「毎日会ってます」と照れくさそうに答える。この短いひと言が、視聴者の心を一気に掴んだ。これまで豪と蘭子(河合優実)の間に仄めかされていた関係性が、初めて明言に近いかたちで示された瞬間だった。
SNSでは「キャー!豪ちゃんの好きな人確定」「やっぱり蘭子だったのね」「この一言にすべてが詰まってる」など、興奮と感動の声が相次いだ。抑えた感情の中ににじむ誠実さと照れが、豪という人物の真面目さを際立たせる場面でもあり、28話の大きなハイライトとなった。
蘭子の恋心が物語をどう動かすのか
家族の間でも密かに注目を集めていた蘭子(河合優実)の恋心が、第28話で明確に取り上げられた。姉・のぶ(今田美桜)が「蘭子に後悔してほしくないがよ」と母・羽多子(江口のりこ)に相談し、蘭子が豪(細田佳央太)を想っていることが家族に共有される。
のぶは「うちはこういうのうとうて」と語りながらも、妹のためにどうにか背中を押してやりたいという思いに駆られる。祖母のくら(浅田美代子)も含め、家族が一丸となって蘭子の気持ちに寄り添おうとする姿は、戦時下という不安定な背景の中でも、恋をする権利や気持ちを尊重する価値を浮かび上がらせる。
蘭子の想いがどう動き、豪に届くのか──それは次回以降の物語で描かれるであろうが、本話では“恋心が家族を巻き込むほどの力を持つ”ことを静かに証明するエピソードとなった。
戦時下の青春と恋──視聴者が共感した理由
第28話では、戦争という極限状況の中でも、青春を生きる若者たちの揺れ動く気持ちがリアルに描かれた。軍隊に入る覚悟を決めた豪(細田佳央太)は、草吉(阿部サダヲ)との釣りの場面で、「勇ましく戦おうなんて思うなよ」と諭され、「逃げる」という選択肢があることを教わる。
このセリフは、強くあらねばならないと自らを鼓舞していた豪の中に、別の生き方があることを示したと同時に、視聴者にも“生き延びる勇気”の大切さを伝えた。さらに、豪が語る「毎日会ってます」という一言に代表されるように、青春の恋心や日々のきらめきが戦時下にも存在するという事実が、物語に深い共感をもたらした。
視聴者は、苦しい時代の中でこそ大切にされるべきもの——愛、絆、想い——に共鳴し、「だからこそ応援したくなる」と感じたのではないか。あえて感情を爆発させることなく、静かに描かれる青春の輪郭が、多くの人の心に残る回となった。
写真の伏線が示す草吉の過去とは?
第28話で特に印象的だったのが、嵩(北村匠海)が銀座のパン屋「美村屋」で発見した一枚の古い白黒写真だ。その中に写っていた人物は、嵩が高知で出会った屋村草吉(阿部サダヲ)に酷似しており、思わず「この人、草吉さんに似てるような…」とつぶやく。
視聴者にも草吉の素性や過去が明かされないまま謎が残される。この何気ない写真は、草吉の過去が東京と深く関わっている可能性を示唆する重要な伏線となっている。
草吉はこれまで、高知での生活の中でも多くを語らず、どこか影を背負っているような人物として描かれてきた。今回の銀座での発見は、彼の過去に何らかの秘密や、大きな転機があったことを予感させる。視聴者にとっては、草吉というキャラクターをより立体的に捉える鍵となる場面であり、今後の展開への大きなヒントを内包している。
豪と草吉の釣り場トークに込められた願い
草吉(阿部サダヲ)が豪(細田佳央太)を釣りに誘うシーンは、本話の中でも特に心を打つ場面であった。そこには、軍隊に入るという重い決断を前にした若者に対して、人生の先輩として草吉が何を伝えたいのか、という深いテーマが流れていた。
草吉は「このままどっかに逃げちまったらどうだ?」「戦争なんていい奴から死んでくんだからな」と、冗談交じりに豪に語りかける。これらの言葉には、単なるふざけではない“本気の願い”が込められている。豪に生き延びてほしい、生きてこそやりたいことができる——そんな草吉の心からの思いがにじむ。
また、「会っときたい女とかいないのか?」と探る草吉に対し、豪が「毎日会ってます」と照れながら答える場面は、若者らしい素直な恋心を滲ませる一方で、戦地に向かう若者が持つ“最後の日常”としての重みもある。
この釣り場でのやり取りは、戦争という非日常の中にあっても、心を通わせる瞬間が確かに存在することを示している。そして草吉が豪に託した“逃げる勇気”という哲学は、今後の豪の選択や行動に少なからず影響を与えるものとなるだろう。
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