
朝ドラカムカムエヴリバディ第86話は、登場人物たちの成長や関係性の変化が丁寧に描かれた、見応えあるエピソードです。桃太郎の高校入学がもたらす家族の変化をはじめ、大月家の団らんが描くあたたかな絆、そして五十嵐とひなたの恋模様が進展する瞬間など、家族・仕事・恋愛が交錯する濃密な回となっています。
さらに、物語の舞台となる映画村では、来場者数の減少という現実と向き合う中で、ひなたが抱える葛藤や、映画村の現実と未来への挑戦が浮き彫りになります。そこには、映画村の変化が映す時代のうねりや、五十嵐の苦悩と信念が見せる職人魂も重なります。
夢と現実が交錯する演出の巧みさや、次世代へと続く“想い”のバトンなど、多層的なテーマが詰まった第86話。今回は、その見どころを余すところなく深掘りしていきます。
- 桃太郎の高校進学が家族に与える影響
- ひなたと五十嵐の関係が深まる経緯
- 映画村が直面する現実と変化の背景
- 第86話に込められた夢と現実の対比演出
朝ドラカムカムエヴリバディ第86話の魅力

桃太郎の高校入学がもたらす家族の変化
第86話では、ひなたの弟・桃太郎が京都西陣高校に入学する場面が描かれ、物語の時間軸が1992年へと進んだことが明確に示されます。入学式当日、家族はそろって記念写真を撮影し、晴れやかな節目を祝います。桃太郎の進学は、ただの通過点ではなく、大月家全体の時間の流れと成長を象徴する出来事として位置づけられています。
特に印象的なのは、家族で撮影した写真にひなたが「寝起きで化粧してないから」と遠慮しつつも、父・錠一郎の「チーズ!」という明るい声に支えられて、あたたかく場面が進んでいく様子です。家庭の中でのさりげない会話が、変わらない日常と家族の愛情を感じさせる瞬間となっています。
桃太郎の高校入学を機に、家族それぞれが新たなステージへと進んでいく姿が予感される中、大月家の絆が一層強くなっていることが描かれています。
五十嵐とひなたの恋模様が進展する瞬間
今回のエピソードでひなたと五十嵐の関係に新たな一歩が刻まれたのは、映画『妖術七変化!隠れ里の決闘』を一緒に観に行くシーンから始まります。五十嵐が出演したその作品を、ひなたが「一緒に観たい」と思う背景には、彼への特別な思いが感じられます。
映画館を出たあと、ふたりは地元のお祭りに立ち寄ります。夜の境内での会話には、これまでとは違う親密さがにじみ出ており、五十嵐が「そなたを幸せにしたい」「今度は切るなよ」と語るシーンは、物語の中でも特にロマンティックな場面となっています。
また、ひなたが後に五十嵐を夕食に誘うも、彼が断る場面には、一歩近づいた二人の距離がまだ完全に交差しきれていない微妙なニュアンスがあり、視聴者に“これから”への期待を抱かせる瞬間となりました。
大月家の団らんが描くあたたかな絆
映画を観終えたあと、ひなたと五十嵐は大月家へ戻り、家族との食卓を囲む場面が丁寧に描かれています。特に印象深いのは、ひなたが五十嵐を自然に家族の中に招き入れ、彼がその場に違和感なく溶け込んでいる様子です。
「おじさんとおばさんもよかった?」という五十嵐の声に、「はい、もちろん」と返すやりとりには、遠慮のない親しみが感じられます。姉のひなた、弟の桃太郎、両親のるいと錠一郎がそれぞれの立場で互いを尊重し、支え合っている姿は、まさに“日常の幸せ”を象徴しています。
また、食卓で交わされる何気ない会話の中にも、ひなたの成長や、家族全体が一つの節目を迎えている空気感が漂っており、「変わらないこと」と「変わっていくこと」の両方が穏やかに表現されています。
映画村の変化が映す時代のうねり
映画村が直面している来場者数の減少は、第86話における現実的な課題としてクローズアップされています。上司から「数字で突きつけられると堪えるな」と告げられたひなたは、改めて映画村の現状に向き合うことになります。映画村がもともと映画の制作資金を補うために生まれた施設であるという事実を初めて知り、彼女は衝撃を受けます。
かつては映画村の収益によって数多くの時代劇映画が制作されてきましたが、その収益自体が落ち込んでいる今、村と時代劇双方の存続が危ぶまれています。これは単なる施設の問題ではなく、文化的背景に根差した大きな「時代の変化」の波ともいえるでしょう。
ひなたに求められるのは、変化に立ち向かうための“新しいアイデア”です。彼女はまだ具体的な答えを出していないものの、その責任とプレッシャーの大きさを痛感しています。物語は、過去から受け継がれた文化と、未来に向けた新たな創造のはざまで揺れ動くひなたの姿を通して、視聴者に「変わりゆく時代との向き合い方」を問いかけています。
朝ドラカムカムエヴリバディ第86話を深掘り!

五十嵐の苦悩と信念が見せる職人魂
第86話では、五十嵐という人物の内面に潜む葛藤と信念が静かに浮かび上がります。『妖術七変化!隠れ里の決闘』のヒットにも関わらず、彼はその後も大部屋俳優のまま。セリフも役名も与えられない状態が続き、役者としての壁に直面しています。
そんな五十嵐に対して、ひなたはある作品のスタジオ撮影に参加するよう提案します。内容は現代劇のエキストラ。しかし、五十嵐は毅然と「俺は時代劇以外はやらない」と断ります。この短い言葉の中には、時代劇というジャンルに対する深い愛情と、自らの役者としての矜持が凝縮されています。
現代の変化に柔軟に対応できないとも取れるこの姿勢ですが、それ以上に「自分の信じたものを貫く強さ」として描かれているのが印象的です。時代が変わろうと、揺るがない職人魂。それは、単なる頑固さではなく、五十嵐という人物の真摯さと純粋さの象徴です。
映画村の現実と未来への挑戦
ひなたが勤務する太秦映画村は、今まさに厳しい現実と直面しています。来場者数は落ち込み、時代劇の需要も減少。第86話では、その事実を上司から改めて数値として突きつけられたひなたが、言葉を失いながらも受け止めようとする姿が描かれました。
上司からは「どうしたら映画村に人を呼べるか考えてほしい」と求められますが、具体的な方策はまだ見えず、ひなたは大きな課題を抱えたまま日常に戻ります。この場面は、ひなたが職場の中核にいる存在として信頼されている証でもあり、彼女にとって新たな成長の入口ともいえる出来事です。
映画村が時代劇を支えてきた歴史と、それが失われつつある現実。その両方を受け止めた上で、次にどう動くか。ひなた自身がその中心となって変化をもたらせるのか——その問いが物語の次の展開を引き寄せる形となっています。
家族・仕事・恋愛が交錯する濃密な回
第86話は、家族・仕事・恋愛という異なるテーマが絶妙に絡み合い、ひなたの人生が多面的に描かれた濃密なエピソードとなりました。冒頭では弟・桃太郎の高校入学という家族の大きな節目が描かれ、家族そろって記念撮影を行う場面では、変化の中にも変わらぬ絆が感じられます。
一方、職場では映画村の来場者数が減少しているという厳しい現実を突きつけられ、ひなたは自らの仕事とその意義について真剣に考えるきっかけを得ます。長年勤めてきた映画村の背景や現状を改めて知ることで、彼女の責任感や使命感は一層深まります。
さらに、五十嵐との関係も大きな動きがありました。映画を一緒に観に行き、お祭りで心を通わせる場面、そして夢の中での理想の未来——これらは、ひなたが抱く恋愛感情と、それに伴う内面の成長を表現しています。
これら三つの要素が一話に凝縮され、ひなたという一人の女性が抱える複数の役割と葛藤がリアルに描かれた回となっています。
次世代へと続く“想い”のバトンとは
『カムカムエヴリバディ』は三世代にわたる女性たちの物語ですが、第86話でも“想いのバトン”が確かに描かれています。今回、焦点となったのは、母・るい、父・錠一郎から受け継いだ「家族の温もり」と「誠実に生きること」の価値観です。
ひなたが五十嵐の不器用な一面をも受け入れようとするひなたの姿には、るいのような包容力が重なります。
また、職場で直面する困難に対しても、ひなたは逃げずに向き合おうとします。これは、初代ヒロイン・安子から連綿と受け継がれてきた「自分の足で未来を切り拓く」姿勢を今も彼女が内包していることを示しています。
こうして、家族の中で育まれた価値観が、次の世代へと自然に引き継がれていく様子は、このエピソードの根底に流れる大きなテーマのひとつです。
現実と幻想が交錯する演出の巧みさ
第86話の最大の演出的魅力は「現実の物語」が滑らかに交錯する構成です。物語の前半は、現実の出来事——映画鑑賞、家族の団らん、お祭りの夜——が描かれますが、そこから自然な流れでひなたの夢の中へと移行します。
現実での映画鑑賞と、夢でのドラマが重なり合うことで、ひなたの心の中で育まれた想いが映像として形を成し、視聴者に強く訴えかけます。夢の中で名前を呼び合う声が響き、そこから目を覚ます瞬間までの流れも、編集や演出の巧妙さを物語っています。
現実と幻想の境界を曖昧にしながらも、ひなたの感情の流れを丁寧に追える構成は、朝ドラならではの深い情感と映像表現の融合といえるでしょう。
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